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IPv6ご意見番


イノベーションを巻き起こせ ~マイクロソフト 及川氏を迎えて~


今回は、マイクロソフト社との共同企画での対談を実現しました。マイクロソフト ディベロップメント株式会社の及川グループプログラムマネージャ をお迎えして、イノベーションの話からNGN、Vistaの話まで、非常に奥が深く、熱のこもった対談となりました。
尚、今回の対談は、マイクロソフト社のビデオブログサイトChannel9で公開されています。このサイトからストリーミングによる臨場感あふれる対談をお楽しみいただけます。また、Biz6サイトで掲載しきれなかった話題も収録されていますので、お見逃しなく。

マイクロソフト社 ビデオブログ Channel9 インテック・ネットコア荒野さんと及川さんとの対談
ビデオ版音声版


 IPv6をいかに普及させるのか?

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及川 企業ネットワークが技術の発展をするというだけではなくて、IPv6というものをキーワードにして、企業のそもそもの統治のあり方やビジネスのやり方が大きく変えることができるのではないかということを仰られていますよね。
荒野 そうです。技術的にIPが新しくなりました、ということだけではなく、やり方を変えないと企業ネットワークへのIPv6導入の意味がないし、IPv6はその部分でイノベーションを起こすためのいいドライバになるのではないかと思っているんです。
及川 しかし、そうは言ってもなかなか普及しないですよね。果たしてIPv6がイノベーティブなテクノロジーになりうるかというあたりの話を少し聞かせていただけますか。
荒野 IPv6の普及についてはたくさんの人が考えていますが、私は、何より「最初のキックはどこか」が大事だと思っています。それは、別の視点から言うと、IPv6普及に向けた戦略をどう取るべきか、ということで、私はCASM(キャズム)理論をもとに考えると分かりやすく説明できると思っています。
及川 CASM理論について説明していただけますか?
荒野 CASM理論というのは、ジェフリー・ムーアさんという方が提唱した有名なカスタマータイプによるマーケットセグメント戦略です。ごく簡単に説明してしまうと、「新しい技術のマーケティング戦略は、その技術のライフサイクルとその各段階でターゲットとすべき顧客を明確に定義し、各層の間にある溝(キャズム)をいかに超えていくかを考えるのが肝要である。」という理論です。
及川 MBA取得コースなどでも支持されている理論で、今やハイテク技術のマーケティングの基本概念であるとも言われていますね。
荒野 それで、新たな技術というのは、まずイノベーターといってどちらかというと技術オタクのような人が使い始めます。たとえば「IPv6?面白そうだね」と、それだけで始めてしまうような人ですね。次は、周りに先んじてその技術を使おうとする人、たとえば、製品的に見て不完全でも自分たちで投資してでも補って、とにかく何か自分のアイディアを実現しようとする人をアーリー・アダプターと呼びます。このセグメントが、まさにイノベーションを起こしたり革新を起こしたりする人になります。その次はアーリー・マジョリティといって、この辺までくるとだんだんボリュームも増えてくるわけですが、先ほどのアーリー・アダプターの人たちの動向を見ていて、「じゃあ、自分もこのメリットを享受できるかな」と考え、享受するにあたっては良いところ、悪いところを両方取る層になります。製品のサポートの有無を確認するなど、実利主義者と言えると思います。次に保守的なレイト・マジョリティ。最後に、最後まで懐疑的なラガード、となります。
及川 すると、このキャズム理論をIPv6にあてはめて考えると・・・、

荒野 IPv6導入のコストメリットはどこにあるのかという議論がよく出てきますが、これは、アーリー・マジョリティに対する戦略になります。IPv6はまだアーリー・アダプターをいかにつかまえるかという段階にいるのではないかと私は思っているのです。
及川 なるほど。つまり、本来ターゲットでないところにアプローチしていることがないだろうかという疑問提起をされているわけですね。
荒野 また、アーリー・アダプターの中にも先進的な人とそうでない人もいると思います。キャズム理論のライフサイクルの層をもっと細かく切って考えてみると、たとえばファシリティーマネジメント(ビル管理)においては、実はアーリー・アダプターは既に始まっています。よって、この分野に対しては、アーリー・アダプターからアーリー・マジョリティにどうやってもっていくかという戦略を考えなければいけないわけです。このキャズム(隙間)をいかに越すか。つまり、それは売り込みの戦略を考えなければいけないということになると思います。
及川 つまり、IPv6は、そのほとんどはまだアーリー・アダプターをいかに捕まえるかというところなのだろうけれども、分野によってはとっくにアーリー・アダプターに入ってアーリー・マジョリティに達する寸前、というところもあり、そこに対しては既に売り込みの戦略を考えるべきところにきている、と。そして、技術のライフサイクルの中でどの部分をターゲットにするか、マーケットセグメントによってマーケティング戦略や製品戦略、そしてサービス戦略というのはそれぞれ異なるだろう、というわけですね。
荒野 そのとおりです。大事なのは、いかにきちんと見極めるか、ということですね。
及川 確かにそれはあると思います。ですから、こういったアーリー・アダプターからアーリー・マジョリティへ進みつつある分野をいかに増やせるかということと、あとはライフサイクルごとの適切なマーケティング、製品戦略、サービス戦略を打っていくということが重要となるということですね。
荒野 そうです。

インターネットの将来

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及川 分かりました。では、ちょっとここでIPv6からもっと視野を広くして、インターネットの現在の課題と、それに向けての解決策、あとは将来像、インターネットのイノベーションのようなところで何かお考えはありますか。
荒野 実は、3年ぐらい前から次世代インターネットというか、次世代ネットワークモデルみたいのをずっと考えていて、あるキャリアさんと共同研究をしたり、製品開発をしたり、あとは、いろいろなところのアプリケーションに関わる人たちをヒアリングしたりしました。
及川 アプリケーションというのは、具体的には?
荒野 コンピューターアプリケーションという意味ではなくて、ホームセキュリティ、医療関係、ゲームなど広くいろいろな産業の方ということですね。IPv6というのは、これからコンピューター以外のところに使われていくし、Any産業、つまりいろいろな産業と融合していくだろうと思って、そういう方にヒアリングをしたことがあるんです。たとえば、あるホームセキュリティの会社で、ある大事なパケットが届かなかったばかりに、泥棒が入って被害が拡大しました、というケースでは、ホームセキュリティ会社からすると、ネットワークが悪いということになるんだけれども、でもそのサービスを提供しているのはその会社なので、では誰が悪いのか、というと責任のありかがわからない。
及川 それはオープンかクローズドか、というところの、インターネットの良い面でもあり悪い面でもありますよね。しかし、インターネットが必ずしも信用できないというところは、たとえばIPv6になることで変わる、つまりイノベーションになるところもあるのではないかと思いますが。
荒野 そうですね。たとえば、流通系のネットワークを製造系のネットワークに重ね合わせたい、A社とB社が合併したので、ネットワークを統合したい、という場合、IPv4では企業内ではプライベートアドレスを使っているところがほとんどですから、そのままだと使えない。ところが、独自のアドレスを持っていると追加は自由にできます。後からどんどん重ねていけるような、エクストラネット的なネットワーク、これも僕が思っているIPv6時代の1つのネットワークです。また、IPv6ではアドレスが一意に決まります。ということは、端末がきちんと特定できるということだから、セキュリティー的にも誰が何をやっているかがはっきり分かる。そういうきちんとしたネットワークがきちんと作れるのではないかと思っています。
及川 インターネットの将来像はどんなものを描いておられますか。
荒野 僕はあまり政策論者ではないので、どちらかというと技術やビジネスの立場でイノベーションが起こるように仕向けたいな、と思っています。たとえば、オープンにしてあるネットワークサービスレイヤーのところを垂直統合的につくれるような事業者がぽんぽん出るようになれば、それはイノベーションの一つのきっかけですし、モジュラーな環境で次々に追加できるようにしておけば、その後に続いて次のイノベーションが起こるようになるのではないかと思います。僕の立場としては、日本という国でイノベーションを起こしていくことが大事だと思っていて、ここでイノベーションが起こらなかったら、正直まずいのではないかと思っているので、いろいろと考えてみています。
及川 そこはおっしゃるように、垂直統合のメリットを生かしながらオープンであるというところがすごくキーワードになってくるような気がしますね。単純な垂直統合モデルで、初期の段階ではイノベーティブだったけれど、現在は逆に足かせになってしまっている例もありますしね。
将来像といえば、Web2.0のような流れに関して何かお考えはありますか。個人的には、Web2.0という考え方は大好きなんですが、言い回しが気に入らない。つまり、今いろいろ起きているイノベーションがウェブだけではないと思うわけです。
荒野 そうですね。

及川 ティム・オライリーの有名なWeb2.0の論文を見てみると、その中で言うウェブというのは、実は、WWWのウェブだけを指しているわけではなくて、インターネット全体の特にイノベーションを言っているんですね。ところが、今はウェブという言葉が独り歩きしていて、何かサービスをやるとき、すべて”ウェブ”ベースの”ウェブ”アプリケーションでやってしまおうということになりかねないわけです。
荒野 アラン・ケイさんがおっしゃっていたんですが、ウェブは今までその上でいろいろなイノベーションをものすごい勢いで起こしてきたけれど、今はウェブでできないことはたくさんある、と。つまり、ある技術というのは、あるときには非常にイノベーションを促進するのですが、あるときから逆になるというのは非常に面白いと思っています。ウェブでやるとものすごく楽だからその前提でつくってしまおうということになっているというのはいろいろな意味で危険なのではないかと考えたりします。
及川 そこに関しては、マイクロソフトとしては、WindowsのOSをつくっている立場からも非常に違和感や危惧を抱いております。実は、端末側やウェブ以外のテクノロジーでもインターネットというのはいろいろな可能性を秘めているのに、全部ウェブに集約してしまうことによって、逆に足かせになっているのではないかという思いがあるので、荒野さんが言われていることは非常によく分かります。

Windows VistaとIPv6

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荒野 ところで、今、僕はWindows Vistaに非常に期待しているんですよ。
及川 ありがとうございます。
荒野 やはりIPv6がデフォルトでオンになっているOSが登場してきて、それが万や十万、もしくは百万というオーダーで、どっといろいろな人のところに入っていきますよね。僕はこのVistaが基本的にIPv6のプラットフォームになるのではないかと思っているわけです。
こういうものをマイクロソフトさんとして出された意義や、こういうものを使って例えばどういうビジネスを起こそうとされているか、あるいはどういうアプリケーションがつくられて、使われ方がどう変わってくるのか、といったところのイメージがあったら、この機会にぜひお聞きしたいと思っていました。
及川 OKです。幾つかの側面というのがあって、まず、外からの大きな期待というところがあります。国家戦略的な世界の大きな動向を見てみると、たとえば米国の国防総省やホワイトハウスのIPv6導入目標が2008年という事実があり、それを踏まえた上でOSのライフサイクルを考えると、2006年末にリリースされるVistaでは、もうIPv6にピュアで全部対応していなければいけないということになったのです。
次に、端末側のデバイスパワーの巨大化が挙げられます。PCやWindowsという端末側のデバイス側のパワーは非常に大きくなっていますが、残念ながら現状はこれを生かせていません。現在は、ほぼすべてのニーズがウェブとメールの二つに閉じてしまっています。この二つだけでは、もちろんWindowsである必然性がないですよね。だから、マイクロソフトとしては、Windowsを使えば実はもっとすごいことができますよ、というアピールをする必要があるのです。その解の一つとして、エンド・ツー・エンドでつながるピア・ツー・ピアなアプリケーションをもっと普及させていきたいと思っているんです。ユーザーのデジタルライフスタイルやワークスタイル、プロダクティビティー(生産性)と言われているものも大きく変えることができるだろうということを考えたときに、IPv4でやっていくにはどうしても限界があるので、IPv6に換えなければいけないというところが大きなきっかけになっています。
荒野 アプリケーションというのは、どのようなものか詳しく話してもらえますか?
及川 日本だけを考えたら、実はIPv6のアプリケーションをいくらでもつくれます。日本では、コンシューマーの方が安価にIPv6をサービスとして受け入れられるだけの土台が整っています。今でも既にNTTコミュニケーションズさんがOCN IPv6というのをやられていまして、あれはOCNのユーザーですと月300円でできますし、そういった形で安価にあるのですが、残念ながらアメリカを含めほかの国では、コンシューマーの方が安価にIPv6のネットワークコネクティビティーを享受することができないのです。ですから、全世界的に見た場合、現状では、IPv6でしか動かないアプリケーションを率先して出していける状況にはなかなかないのです。しかし、逆に言うと、今IPv4で動いているけれど、実際にはNATで苦労してやっと動いているアプリケーションが、IPv6で動くことにより、苦労なく動くようになります。
荒野 「IPv6でしか動かない」ではなく、「IPv6でも動く、すなわちIPv4でもIPv6でも動く」というのが一つのポイントとなるでしょうね。具体的な例というのはありますか?
 
IPv6ご意見番バックナンバー
Vol.1 IPv6をビジネスに生かすために ~東京大学 江崎教授を迎えて~
Vol.2 ビジネスのスタート地点に立つIPv6
Vol.3 イノベーションを巻き起こせ ~マイクロソフト 及川氏を迎えて~
Vol.4 新市場を創るマーケティング術 ~パナソニック コミュニケーションズ株式会社 小林氏を迎えて~(前編)
Vol.5 新市場を創るマーケティング術 ~パナソニック コミュニケーションズ株式会社 小林氏を迎えて~(後編)
Vol.6 IPv6サミット2006実行委員長に聞く
Vol.7 IPv6サミット2006レポート 展示ブース編
Vol.8 IPv4アドレス在庫の枯渇近づく! ~JPNIC前村氏をお迎えして~
Vol.9 IPv6とリモートメンテナンスとユビキタス

ゲストプロフィール
及川 卓也(おいかわ たくや)
1988年 早稲田大学 理工学部卒業。同年4月、日本ディジタルイクイップメント株式会社入社、ソフトウェア本部にてオフィス統合製品の開発に従事。1993年、マイクロソフト社のWindows NT 日本語版Alphaプロセッサ対応共同開発プロジェクトに参画。1997年、マイクロソフト(株)に入社。1999年、会社分割に伴い、マイクロソフト プロダクト ディベロップメント リミテッド(現、マイクロソフトディベロップメント株式会社)に移籍。マイクロソフト入社以来、一貫してWindowsおよびWindows関連製品の開発に携わる。また、ネットワークおよびセキュリティ関連の業界団体などにも参加し、IPv6や無線LAN、PKIなどの健全な普及に努める。2005年7月より現職。

荒野高志プロフィール
荒野高志/1986年、東京大学理学部情報科学修士課程終了後、国内大手通信会社に入社。国内最大級ISPのネットワーク設計、構築、運用を担当。その後、日本および世界のIPアドレス管理ポリシー策定のため、JPNIC-IP WG主査や、99年より国際的なインターネットガバナンス組織であるICANN ASO 副議長を務める。2002年、インテックネットコア設立時に専務就任、現在、代表取締役社長。(財)インターネット協会Y2KCC/JP代表としてインターネットY2K問題対応に取組んだ。最近では社内外で次世代ネットワークプロトコルであるIPv6の実現・普及啓蒙活動に従事しており現在IPv6 Forumのボードメンバ、(財)インターネット協会IPv6デプロイメント委員会議長などを務める。

<イノベーター理論>
1962年、スタンフォード大学のエベレット・M・ロジャース教授が著書“Diffusion of Innovations”(邦題『イノベーション普及学』)で提唱した、イノベーションの普及に関する理論

<キャズム理論>
1991年、マーケティング・コンサルタントのジェフリー・A・ムーアが著書”Crossing the Chasm”(邦題『キャズム』)で提唱した、ハイテク業界の分析による市場への商品普及の溝(キャズム)に関する理論。

及川 典型的な例が、リモートデスクトップやリモートアシスタンスと言われている機能になります。たとえば、私の郷里の両親に、PCを買ってあげ、DSLの接続もして、インターネットにつなげるようになりました。でも、次に「何とかアップデートというのが出ているけれど、どうすればいいの?」と言われたときに、今までは電話で操作を指示していたのを、リモートアシスタンスで相手から招待してもらうと、画面を実際に見ながらヘルプデスクの形で操作を教えることができます。これはIPv4でも動きます。途中にUPnP対応のNATがあって動くのですけれども、残念ながら、相手方のNATのルーター、こちらのNATのルーター、途中にも何かがあったり、フィルタリングしたり、いろいろな事情があって、何かの拍子に動かなくなったり、始めから動かなかったりすることがあります。これがVistaでは、IPv6で当然動くようになります。
荒野 そうすると、IPv4でもIPv6でも動くので、つながる確率は高くなりますよね。

及川 あと、新しいところでいうと、IPv6のアプリケーションで、2005年9月にマイクロソフトが公開したMAXというソフトウェアがあって、けっこう面白いんですよ。写真共有のアプリケーションで、Windows XPでもVistaでも動きます。自分で写真を整理して、グラフィックプロセッサーのパワーを使っているので、写真を自由自在に編集できたり、アルバムを作れたりします。その作ったアルバムを共有する際、今の普通のアプリケーションだとWebにあげたり、サーバにあげたりしますよね。MAXの場合は違うんです。共有したい相手に招待メールが飛んで、相手もMAXを持っていたらすぐにピア・ツー・ピアでアルバムを共有できてしまうわけです。
荒野 ああ、それは面白そうですね。
及川 このMAXは、IPv4でもIPv6でも動きますが、IPv4でつないだ場合でも、実はTeredoが動いて中はIPv6で接続しているんです。だから、IPv4でつなぐよりIPv6でつないだほうが素直で簡単ですよね。
荒野 なるほど。写真以外にも、どこかのセンターウェブに上げるのは気持ちが悪いな、というものはたくさんあると思います。その辺りにもいろいろなイノベーションの可能性がありそうですね。
及川 はい。Vistaの発展と共に今後IPv6のサービスがどんどん普及してくると、今までIPv4でも動いていたが実はNATの工夫が何重にも必要だったというものも、IPv6ネイティブになることによりもっと自然に素直につながると。これだけでも使われ方は大きく違ってくると思います。
荒野 確かにそうですね。では、コンシューマーユースではなく、企業ユースという視点から見たらどうでしょう?
 

<UPnP>
ユニバーサルプラグ&プレイ(Universal Plug & Play)の略。インターネットで標準となっているTCP/IPをベースとしており、ネットワークにつなぐだけで複雑な操作や設定作業を伴うことなく機能することを目指している。

及川 まずIPv6のIPsecは重要な意味を持つでしょうね。IPv4でももちろん使えるのですが、IPsecをIPv4で使っていたときとIPv6で使うときというのは、やはりグローバルなリーチャビリティー、ユニークなIDを持てるかどうかというところが大きく異なると思います。たとえば、A社という会社があって、企業内ではプライベートアドレスを使っていましたと。ずっとこのビジネスをオペレーションしていくのだったら問題はありませんが、B社と合併したり、もしくはビジネスのパートナーシップを結ぶことになり、それぞれのネットワークを越えて、サプライチェーンのようなものを組みたいというときに、お互いにプライベートアドレスを使っていると、ネットワーク内でアドレスがぶつかるので、VPNさえ簡単に構築することができません。IPv6のIPsecを使うことによりこれを解決することができます。IPv6を素直に使うことによって一つのIPというレイヤーだけにもかかわらず、ビジネスのやり方をがらっと変えていくことができると思います。
もう1つあるのが、アドホックネットワーク。例えば、ワイヤレスのLANの世界でも、アドホックモードにしていただいて、IPv6でもリンクローカルなアドホックにアドレスを振ってということになった場合、ネットワーク的にはつながることになります。Vistaではここにコラボレーションのアプリケーションを1つ入れてありまして、もともとはインフラ側の機能として、People Near Meと言われている機能ですが、近くにいる人を自動的に見つけ出して、同じグループに招待して、その上でアプリケーションを動かすことができます。
荒野 へえ、面白いですね。
及川 これで何ができるかというと、例えば、私が持っているPowerPointのスライドをプロジェクターを使わなくても全員に投射することができて、そこでペンでいろいろなことを書いていったり、ファイルを交換したりすることができるようになります。
荒野 昔、そう言えば、会議中にNetMeetingをちょこちょことやって、アプリケーションを共有しながらやったりしましたが。
及川 ええ。もちろんNetMeetingと同じような使い方もできますけれども、アドホックモードでできるというわけです。それで、今までアドホックモードは、残念ながらIPv4では実現できていません。技術的にはAPIPA(オートネットアドレス)と言われている技術で実現できていますが、この方法だとDHCPとの絡みがあって、アドレスが振られるまで63秒もかかってしまうのです。
荒野 そうですね。63秒待つというのでは、現実的ではありませんね。
及川 残念ながらこのアドレスを使うようなアプリケーションは、マイクロソフトを含めて出てきませんでした。でもIPv6で実現すれば、一つのインターフェースに複数のアドレスが振られて、リンクローカルアドレスが必ず振られるので、これによって初めてアドホックネットワークというのが現実的なものになってくると思います。

マイクロソフトとIPv6

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及川 Windowsもしくはマイクロソフトのアプリケーションは、プラットフォームです。いろいろなアプリケーションを出しているから、全てをマイクロソフトのソリューションで完結させようと考えていると思われる方が多いのですが、全然そんなことはなくて、Windows XPでIPv6を入れたときから今まで、まずはデベロッパーの方々に使っていただけるようにしようというのが一番大きいです。ですから、どうしても外のパートナーの方々と話していると、「何々はできないですか?」と言われるけれども、「ぜひつくってください。われわれは今そこをつくる予定はないです。一緒にIPv6の世界を盛り上げましょう」というお話をさせていただいているぐらいです。
荒野 なるほど。
及川 ですから、今、IPv6普及・高度化推進協議会でアプリケーションコンテストをされていますけれども、ああいうものを通じて、どんどん商用で使えるようなアプリケーションが出てきてもらえるとうれしいなと思っています。あくまでも我々はプラットフォームベンダーです。その上で一緒にソフトウェアをつくって、サービスを展開してつくり上げていきましょうというメッセージを出させていただいています。

荒野 IPv6の世界では、車や家電など、PC以外のものもインターネット上に乗ってくるようになりますが、VistaもPC以外のものに乗る予定はありますか?
及川 Vistaは、今はどちらかというとデスクトップ・ラップトップ・ノートといったパーソナルコンピュータ向けのOSという形になっています。一方でWindowsモバイルのほうも、ほぼ同じような仕様を持ったものが出ています。例えば、Windows CEと言われているOSには一部Vistaに先駆けてIPv6のいくつかの仕様が入っていたりします。必要なデバイス向けのOSに関しては必要なものを入れていくというところで、いろいろなところでのデバイスにWindows系のOSを使っていただくというのは考えています。
荒野 世界中の全てのデバイスをWindowsで統一してしまおうという勢いを感じますね。
及川 そういった夢は持っていますけれども(笑)。デバイスによってはWindows以外のOSが適しているというのは当然たくさんあると思います。特にマイクロソフトが考えているのは、相互運用性です。OSが異なっていてもきちんとつながるようなものにしましょうという働きかけもしていますし、私どもがいろいろ考えている技術をライセンスさせていただいたりといった取り組みをしています。あと、あまりご存じでない方が多いですが、一部完全フリーで公開しているライセンスもあります。また、.NETの技術のいくつかは、標準化が進んでいます。また、Windowsでなくても上の部分でマイクロソフトが推奨するようなものを使っていただくと、相互運用性が高まるというのもありますので、OSのところをできるだけ一緒にして、さらに言えば、上の部分を一緒にして、そうでなかったとしても相互運用性は確保したいと考えています。
荒野 マイクロソフトの仕様の上でしかイノベーションが起こらないとなってしまうと、それはそれでやはりつまらないと思っているので、今おっしゃられたような活動に非常に期待しています。
及川 そうですね。どうしても誤解されがちなところもあるので、OS……。もちろん、コンペティションによってイノベーションが生まれるところもあると思いますので、競うところは競ってどん欲にやっていくところはありますけれども、一方で完全に垂直統合だけで終わるのではなくて、先ほど荒野さんにも賛同いただいた、オープンな上に立った垂直統合モデルというものを目指していきたいのです。
ですからたとえば、上にOfficeではないほかのアプリケーションを乗せた場合の検証も、実は私どものところで実施しています。また、ネットワークアプリケーションに関しても、もちろん私どものOSに標準で載っているようなネットワーク系のアプリケーションだけではなくて、ほかのものも検証していますので、そこできちんと動くということを考えていきたいと思います。
最後に、荒野さんから「マイクロソフトへの期待」をお聞きしたいのですが…
荒野 いろいろな新しいアイディアがこれからいろいろ試せる時代になったと思っています。私これまではキャリアさんといろいろ一緒にやってきましたが、これからはOSの方ともいろいろ連携してイノベーションを作っていきたいと思っています。
及川 そうですね。この対談でも何回か出ていますが、OSIの7階層ではないですが、何かエンジニアでも階層があるのではないかという気がします。ネットワークに詳しい方は、どうしてもすべてをネットワークで考えようとするところがあって、一方で、アプリケーションを開発する方は、OSや下の部分というのはあまり考えないで、アプリケーションの世界で閉じてしまったりするところがあると思うのですが、そこを何か縦串で話し合うことによって、新たなイノベーションが起き得ると思います。ぜひそういうことは今後もいろいろとお話しさせていただければうれしいと思います。
荒野 今日は、どうもありがとうございました。これからもよろしくお願いします。
 

<アドホックモード>
無線LANの通信方式の一つで、アクセスポイントを介さずに機器が直接通信を行うモードのこと。

<APIPA(オートネットアドレス)>
Automatic Private IP Addressingの略。DHCP サーバがない環境でも、IP アドレスを自動構成する機能で、Windows 98/Me/2000/XPのTCP/IP スタックに実装されている。