IPv6をビジネスに活用する、企業ネットワークをIPv6に移行する、そんなあなたのためのIPv6情報サイト【ビジネスonV6】

IPv6ご意見番


IPv4アドレス在庫の枯渇近づく! ~ JPNIC前村氏をお迎えして ~


今回は、JPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター※1)IP事業部 前村部長をお迎えし、荒野との対談を実現しました。
今年に入り、IPv4アドレスの在庫がいよいよ少なくなっています。IPv4アドレス枯渇時期の予測もいくつか発表され、各地域レジストリ(RIR)※2がIPv4アドレス枯渇期を乗り越えるための対応策を検討し始めています。この好機をとらえ、お二人にIPv4アドレス枯渇問題について、存分に語っていただきました。なお、JPNICのWebサイトには、IPv4アドレス在庫枯渇についてのページ がありますので、ぜひ併せてご覧ください。


前村さん紹介

ページ最上部へ

荒野 今回のご意見番はJPNICのIP事業部長である前村さんにご登場いただくことになりました。前村さん、よろしくお願いします。
前村 よろしくお願いします。
荒野 今年の1月から現職ということですが、まず、JPNICに行かれた経緯も含めてお話いただけますか?
前村 日本に商用インターネットが立ち上がり始めた1994年にBIGLOBE立ち上げという仕事に携わりました。何を隠そう、当時私はIPのことは何も知らず、IPアドレスって何?というところから仕事を始めたんですよ。けれど、NECの大看板を背負って仕事をするとなると、そんなことは言っておられず頑張るしかなかったんですけど、あの時期にこの仕事を経験できたのはとてもラッキーだったと思っています。
荒野 どの辺がラッキーだったと?
前村 当時のNSPIXP※3 ※4 のようなところで仕事をするということは、すなわち日本の主要インターネットの生み・育ての親と言えるWIDE Project※5 の村井純先生らと一緒に仕事をできるということを意味していたんです。そこで、私の中にはインターネットのために何が出来るのかというようなメンタリティーが生まれ、それは今でも私の中に大きく存在しているんです。このメンタリティーがインターネットに貢献したいという私の姿勢の根源にあるんですよ。これはどの組織に所属していようと変わらないですね。
荒野 なるほど。
実は、私もOCNを始めたときIPはまったく知らなかったです。あの頃って、研究者でインターネットをやってきている方と、業務としてたまたまアサインされたような我々とが一緒に共同作業していたわけですけれど、色々な立場の人たちがいて、その中でコンセンサスを作っていくというのが妙に楽しかった時期ですね。何かが出来上がっていくのが目に見えていた時代です。

JPNICについて

ページ最上部へ

荒野 JPNICというと、インターネットに関わる仕事をしていれば誰もが聞いたことのある組織ですが、実際のところどうなっているの?どんな人がいるの?など、ご存知の方はほとんどいらっしゃらないと思います。今回せっかく前村さんにお話を聞く機会をいただいたので、ついでにその辺についても教えていただければと思います。同席しているbiz6編集スタッフからもどしどし質問してもらいましょう。
前村 型どおりの説明は、JPNICのWebサイト を参照いただくとして、我々IP事業部が担っているのは、IPアドレスの管理とIPアドレスに関する政策の策定を二本柱としています。JPNICでは、どなたでも参加していただけるオープン・ポリシー・ミーティングを年に二度開催し、ここでIPアドレスに関する様々な政策が議論されます。この仕組みをもっと色々な方に知っていただけるような啓蒙活動も必要ですし、ミーティングで議論されて決まったことなどを十分に説明する体制を整えるというのが今の課題の一つでもあります。
編集S ところで、JPNICって職員の方は何人くらいいらっしゃるんでしょう?
前村 今は全部でだいたい30人くらいですね。実は、IP事業部は8人しかいないんです。
編集S それだけしかいらっしゃらないんですか!?8人で毎日のお仕事はどんなことをされているんですか?
前村 IP事業部で言うと、やはりIPアドレスの割り振り業務と、その割り振りに関する審議の議論がメイン業務になります。
荒野 たった8人で、日本全国のキャリアやISPなどのIPアドレス管理指定業者からの申請書を受理し、その内容を審査してIPアドレスを割り振るのは大変じゃないですか?どのくらい深く突っ込んで審査されるんでしょう?
前村 今は、エンドユーザに対する割り当てについては、JPNICが審査する前に、まずは指定事業者の皆さんに一回審査していただく形を取らせていただいています。だから8人でもなんとか回せていますね。審査基準はケースバイケースなので一概には言えませんが、ネットワーク構築計画が矛盾なくきちんと書かれていることは大きなポイントと言えます。
荒野 JPNICの業務範囲は広がっているのに、人は増えていませんよね。

前村 私がJPNICに着任した2002年と比べると、審議担当者は半分くらいに減っています。
編集S 審議担当者によって、内容にばらつきが出たりはしないんですか?
前村 担当者同士、横の情報交換は密にして、審査基準にばらつきが出ないようにしています。また、JPNICの中だけではなく、APNIC※6の審議担当者とも情報交換を行い、均一化に努めています。
編集S なるほど。
編集A IPv4アドレスの場合は、アドレスの管理や割り振りに関する審査などを全てJPNICでなさっていますが、IPv6アドレスの場合はどのように行っていらっしゃるのですか?技術講座第2回 でも割り振り/割り当てについて少し書かせていただいているのですが、実際はどうなのかなぁ、と思いまして。
前村 IPアドレス関連の全ての申請について、IPv4と同様にJPNICが対応しておりますが、注1IPv6の割り振り/割り当ての審査の基準はまったく違います。IPv4は非常に限られたリソースですので、できるだけ無駄遣いしないように皆で使いましょう、ということで審査も厳しくやらせていただいていますが、IPv6については、今のところ、割り振りは最低でも/32、つまり96ビットのアドレス空間を丸ごと指定事業者の皆さんにお渡しして、その中で使ってください、という方針です。割り当てに関しては、/48、つまり80ビットのアドレス空間を単一の組織にお渡ししています。前提条件さえクリアしていれば、それ以上の審査は行っておりません。遠い将来、我々が割り振るIPアドレスはIPv6アドレスしかなくなるわけですが、今から無意味な配布をしないように審査の前提条件を考えていけば、審議をすることはほとんどなくなるであろうと考えています。
荒野 そうですね。審査の前提条件を無駄遣いしない方向にコントロールしていくことは、今から考えなければいけない問題ですね。
  注1:当初、JPNICではAPNICで行っていたIPv6アドレスの割り振りの取り次ぎサービスを行っていたが、2005年5月16日よりIPアドレス管理指定事業者を対象にIPv6アドレスの割り振りを行っている。

IPv4アドレス枯渇

ページ最上部へ

荒野 では、今回の本題に入らせていただきましょう。IPv4アドレスの枯渇という話がいよいよ活発になってきたと感じています。
前村 この問題は1990年くらいからずっとあって、なくなるとかなくらないとか、喧々諤々と議論してきていますね。
荒野 そのときには大まかにいって3つの解決法が採用されましたね。ひとつめはクラスA、Bといった大きな単位で割り振りしていたのを、小さくちぎって地域レジストリで分割するようにしました。これは、RFC2050※7 「インターネットレジストリにおけるIP割り振りのガイドライン」に書かれています。2点目は、RFC1918※8「プライベート網のアドレス割り当て」にあるように、NATを使ってプライベートアドレスを利用する方法です。3つめの根本的な解決法として、正しいインターネットを作るとするとやはりプロトコル見直しだろう、というところから生まれたのがIPv6なわけです。
前村

様々な対策もあって、だいぶ長持ちしたのでしょうけど、先ほどおっしゃられたように、もう予想以上のインターネットの伸びでいよいよ本当に足りなくなってきています。

荒野 まず事実として、IPアドレス今どういうふうな消費状況というか利用状況になっているかというところから少しお話いただけますか。
前村 現在のところ、/8クラスAアドレス相当(クラスAアドレスは、IPv4アドレス全体の256分の1のかたまり)が47個あるという状態です。2006年、2005年、2004年の3年間くらいの消費の状況をみますと、だいたい堅調にクラスAを10個ずつ消費しており、年々その消費ペースは若干速くなっていると言われています。年間、/8クラスAが10個ずつ消費すると5年足らずでなくなるのですが、APNICのG・ヒューストン氏のより精緻な枯渇時期予測 によると、今のところ2010年の初頭、第一四半期にIPアドレスの管理構造の一番トップにあるICANN/IANA※9 のプールがなくなるということになっています。そしてIANAの下にある地域レジストリのプールがなくなるのはそれから半年後と言われています。いずれにしても幾人かの識者の見解を総合すると、2010年くらいにはレジストリにおけるIPv4アドレスの新品の在庫がなくなるという予測になっています。



(出典: Geoff Huston氏が作成しているWebサイト

荒野 今、IPアドレスはどんなところに使われて、どのようにその消費数が伸びているんですか?
前村 我々の観測ですと、例えばケーブルテレビなど、今まではプライベートアドレスでインターネットの接続サービスを提供していたところがグローバルアドレスで提供するようになったことが挙げられると思います。ケーブルテレビのサービスを今までプライベートアドレスで受けていたユーザに対してグローバルアドレスが必要になってきたということですね。あとは、ひとつのユーザに対して単一なIPアドレスだけではなくて、複数、つまり2個、あるいは/29という6ホストアドレスの入るようなブロックを出すというサービスが増えてきたんです。例えば、インターネットのコネクティビティのためのアドレスに加えて、IP電話のためのIPアドレスが必要になったりと、単一ユーザにおける平均的なIPアドレス消費数は確実に増えてきていると言えると思います
荒野 サービス単位でグローバルアドレスを使い分けようとすると、IPアドレスの大量消費が前提となりますから、IPv4アドレスの使用量が伸びてくるのは必然ですよね。我々はIPv6マルチプレフィックス機能を利用したマルチプレフィックス制御技術の研究開発を行っています。これは、IPアドレスをインターネット用、ゲーム端末や冷蔵庫などの家電用、空調や監視カメラなどのファシリティ用といったサービス単位で使い分けようという技術です。先ほど前村さんがおっしゃったIPアドレスの使い方はまさにマルチプレフィックス的な使い方の一部が既に始まっているという見方もできますよね
前村 実際、フレッツ注2のようなサービスでしたらISPを使い分けることもできますからね。そういった形でIPアドレスが複数使われていることはあるんだと思います。
荒野 なるほど。この傾向は日本だけじゃなくて世界的にいろんなところで増えているんですか?
前村 と思いますね、はい。本格的な調査をしたわけではないので、きちんとは分からないですけれど。
荒野 年間で/8クラスA相当を10個消費しているということで、割り振り済みであっても使われていないIPアドレスが同じだけ返還されればIPv4アドレスの枯渇はまだまだないだろう、という意見もありますが。
前村 理論的には正しいと思いますが、現状を見ると、年間クラスA相当が10個返還されるとは考えにくいです。だから、やはり割り当てるものがなくなりつつある、という前提でではどうすべきかを考えるべきだと思いますね。
  注2:フレッツはNTT東日本およびNTT西日本が提供するサービス名です。

JPNICの取り組み

ページ最上部へ
 
IPv6ご意見番バックナンバー
Vol.1 IPv6をビジネスに生かすために ~東京大学 江崎教授を迎えて~
Vol.2 ビジネスのスタート地点に立つIPv6
Vol.3 イノベーションを巻き起こせ ~マイクロソフト 及川氏を迎えて~
Vol.4 新市場を創るマーケティング術 ~パナソニック コミュニケーションズ株式会社 小林氏を迎えて~(前編)
Vol.5 新市場を創るマーケティング術 ~パナソニック コミュニケーションズ株式会社 小林氏を迎えて~(後編)
Vol.6 IPv6サミット2006実行委員長に聞く
Vol.7 IPv6サミット2006レポート 展示ブース編
Vol.8 IPv4アドレス在庫の枯渇近づく! ~JPNIC前村氏をお迎えして~
Vol.9 IPv6とリモートメンテナンスとユビキタス

ゲストプロフィール
前村 昌紀(まえむら あきのり)
JPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター) IP事業部長
1991年日本電気株式会社入社。1994年同社インターネットサービスBIGLOBEの立ち上げに参加し、以降ISP運用に従事。2000年フランステレコムグループに移り、日本及びアジア地域のIPプロダクト管理,日本研究所勤務を経て、2007年1月より現職。
1996年よりJPNIC IPアドレス検討部会にメンバーとして参加、2002年からはIPアドレス担当理事を務め、 日本のIPアドレス管理に貢献。2000年からは、APNIC ECメンバーとしてAPNICの運営に関わってきたほか、APNICと各国NIRとの議論の場であるNIR-SIGでチェアを務めるなど、国内に限らずアジア太平洋地域におけるIPアドレス管理に関わる活動を幅広く行ってきている。

荒野高志プロフィール
荒野高志/1986年、東京大学理学部情報科学修士課程終了後、国内大手通信会社に入社。国内最大級ISPのネットワーク設計、構築、運用を担当。その後、日本および世界のIPアドレス管理ポリシー策定のため、JPNIC-IP WG主査や、99年より国際的なインターネットガバナンス組織であるICANN ASO 副議長を務める。2002年、インテックネットコア設立時に専務就任、現在、代表取締役社長。(財)インターネット協会Y2KCC/JP代表としてインターネットY2K問題対応に取組んだ。最近では社内外で次世代ネットワークプロトコルであるIPv6の実現・普及啓蒙活動に従事しており現在IPv6 Forumのボードメンバ、(財)インターネット協会IPv6デプロイメント委員会議長などを務める。

※1<JPNIC>
JPNIC(社団法人日本ネットワークインフォメーションセンター)は、インターネットの円滑な運営を支えるための組織であり、社団法人、つまり省庁の監督の下で設置される公益法人という位置付けにある。
役割は、大きく二つあり、一つはNIR(国別インターネットレジストリ)として行っているIPアドレスの管理、そしてIPアドレスに関する政策の策定を行っている。もう一つはインターネットの円滑な運営に寄与するための公益事業、つまりインターネットの推進に関わる事業である。
年に一度、Internet Weekを主催している。
http://www.nic.ad.jp/


(出典: JPNIC

※2<地域レジストリ>
RIR(Regional Internet Registry)
ICANN/IANAの下部組織で
インターネットリソースの配分
と登録を行う組織。現在世界で
5つのRIRが運用されている。

※3<NSPIXP (Network Service Provider Internet eXchange Point)>
WIDE Projectによって運営されているインターネットエクスチェンジ(IX)

※4<IX(Internet eXchange)>
複数のインターネットサービスプロバイダ(ISP)を相互に接続するインターネット上の相互接続ポイント。

※5<WIDE(Widely Integrated Distributed Environment)>
広域にわたる大規模な分散コンピューティング環境を構築する技術の確立を目指す、オペレーティングシステム技術と通信技術を基盤とした研究プロジェクト。日本におけるインターネットの先駆け的存在。

※6<APNIC(Asia Pacific Network Information Centre)>
ICANN/IANAの下部組織である地域インターネットレジストリの一つで、アジア・太平洋地域の各国のNICやインターネットサービスプロバイダへのIPアドレスの割り当てを行っている。

※7<RFC2050 Internet Registry IP Allocation Guidelines>
インターネットレジストリにおけるIP割り振りのガイドライン

※8<RFC1918 Address Allocation for Private Internets>
プライベート網のアドレス割り当て

※9<ICANN/IANA(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers/Internet Assigned Number Authority)>
インターネット上で利用される全世界のアドレス資源の標準化や割り当てを行なう組織。


荒野 このような状況で、JPNICとしてどのような取り組みをされようとしていますか?
前村 2007年6月15日に我々JPNICから「インターネットレジストリにおけるIPv4アドレスの在庫枯渇に関して」という姿勢表明を出し、これに基づき、同19日に「IPv4アドレスの在庫枯渇状況とJPNICの取り組みについて」というプレスリリースも行いました。こちらの姿勢表明およびプレスリリースは、JPNICのWebサイト からも簡単にご覧にいただけますし、JPNIC会員の皆様には、JPNICニュースレター の発送の際に同封してお送りしました。
荒野 あれはインパクトありました。JPNICとして、IPv4アドレス枯渇問題に対する根本的な解決方法はIPv6しかない、という姿勢表明ですね。
前村 はい。第三パラグラフでIPv6を基礎とするインターネットに移行する、と断定で言い切っています。
荒野 これは他の各地域レジストリでも同じでしょうか?
前村 はい、同じです。たとえば、JPNICの表明の少し前、5月21日に北米地域レジストリのARIN※10 がIPv4は永遠に分配できるものではない、ということと、世の中にはIPv6というプロトコルが既にあるんだということをきっちりと書き込んだ”ARIN Board Advises Internet Community on Migration to IPv6” というステートメントを発表しています。
荒野 なるほど。では、JPNICがこの表明の中で一番アピールしたいポイントは何でしょう?
前村 JPNICとしてはまず、IPアドレスが使われていくことに対して、これを抑制するという立場にもなければ抑制しようとも思っていないということは言明させていただきたいと思います。JPNICの役割の一つは、インターネットのレジストリやIPアドレスの管理であり、IPアドレスを供給するサービスを行っているわけですから、インターネットレジストリにおいてIPv4アドレスの在庫が枯渇するということはまさに我々が供給しているものが供給できなくなるということを意味しているのです。ですから、まずはそれを皆様にきちんとアナウンスすることが、今一番大事だと思っています。
荒野 情報提供をしていくということですね。
前村 その通りです。IPv4アドレスの在庫がなくなりつつあるのは事実ですから、まずはそれを知っていただいて、ではどうすべきか、については、事業者の皆様と一緒に考えていく必要があります。我々は、事実や今後の予測、それに基づく分析等の情報を提供させていただく、というのが、まずは基本的なスタンスだと思っています。
荒野 もう少し突っ込むと、前村さんは、JPNICは具体的に、どのようなことが出来そう、もしくはどのようなことをやるべきだと思っていらっしゃいますか?
前村 IPアドレスのレジストリというのは日本でJPNIC一つしかありませんので、レジストリにしかできないことがあれば、もちろんそれはやらなくてはいけないと思っています。もう一つは、私は色々なところで言っているんですが、JPNICは事業者の間に落ちるものをやらなくてはいけない、と思っているんです。つまり、各事業者の皆様が単独の努力でできないもの、もしくは利害関係があってなかなか手をつけられない問題があれば、それはJPNICが喜んでやるべき領域だろうと思っています。
荒野 例を挙げると?
前村 よく考えるのは、たとえばIPv6に向かっていくというのは一つの事業者ではできないと思うんです。ネットワークからなのか、アプリケーションからなのか、といったニワトリと卵の議論もありますし。それを、JPNICが話し合いの場を設けて調整して回って、皆さんの意見を聞いて集めて、といったことは案外JPNICにしかできないことなのかもしれないと思っています。

荒野 逆に、SIerに求めることってありますか?
前村 アプリのプログラムソースにIPv4アドレスが直打ちされているものなど、IPv4でしか動かないシステムやアプリケーションがまだまだあることは間違いないと思っています。我々としては、インターネットで今何が起こっているのか、それに対応するにはどうすべきなのか、といったような全体的な観点からみた、たとえば、IPv6の環境でも使えるようIPv4とIPv6両方に対応したソリューションやサービスの構築を期待していますし、SIerの皆様にもっと興味を持っていただけるよう、我々も頑張らなくてはいけないと思っています。
荒野 IPv6に向かっていくというのは、簡単に言うと、二種類のリソースがあって、片方がそろそろなくなりそうなので終わりにしてもう片方に移ってください、ということなんですが、いかにスムーズに終わらせるかという問題はとても重要で、今具体的に色々な議論が巻き起こっていますよね。
前村 様々な意見があって、すごい議論になっています。たとえば、/8が全部で25個になったときに、世界に5つある地域レジストリに5個ずつに分けて終わりにしようという意見もありますし、最近ARINで出された意見に、時期を10段階くらいに分けて、その段階ごとに割り振り基準を厳しくしてIPv4アドレスを取りにくくし、最後はこんなに大変な思いをしてIPv4アドレスを申請するよりもIPv6に移行したほうが良い、という方向に誘導したらどうか、というものもありました。
荒野 それはまた大胆な案ですね。JPNICとしてはどんなことをお考えですか?
前村 今年の前半検討していたJPNICのカウントダウンポリシーは、まずは徐々に厳しくするというようなことはせず、今のペースのままIPv4アドレスを供給し続けるのを原則としようというものです。ただし、最後の最後まで同じペースで割り振りを行うために、最後の日であるターミネーション・デート(Tデート)を予め決めておいて、Tデートになったら残っていたとしても割り振りをやめます、と。

荒野 しかし、まだあるものを配らないというのは、例えばアメリカでいうと独占禁止法に違反する可能性がありませんか?
前村 その通りです。独占的なサービス供給者が意図的にサービスを拒否するということは独占禁止法に抵触するためこのポリシーは問題があるという指摘がありまして、今提案しようとしているポリシーは、Tデートの後は配らないというのではなく、審査を非常に厳しくしようというものです。ただ、ポリシーについては、現在でも日々検討されていまして、メーリングリストでも活発に意見がやり取りされていますので、どうなるかはまだ分かりません。
荒野 日本の場合だけでなく全世界をベースに考えなくてはいけませんから、ポリシー議論を追うのだけでも大変そうですね。
前村 追うのは中々大変で、今は苦労しています。やり方を少し考えなければいけないと思っています。至るところから出てくるポリシー案だけでなく、それらに対する意見や議論もきちんと追えればもっと精密なリアクションが取れるはずですが、なかなかそこまでできていないのが現状です。
荒野 なかなか難しいですよね。
編集S 切替や移行のモデルとして、2011年に完全切替のスタイルを取った地デジの方法は、色々なところで参考にされているという話を聞いたことがあります。IPv4アドレスの場合で考えると、ある時期、先ほど前村さんがおっしゃったように「Tデート」以降は割り振らない、というのは案外と良いかもしれない、と思ってしまいますが。
前村 良い悪いは別として、地デジの2011年のケースは勉強しなくてはいけないと思っています。実は、IPv4アドレス配布に関して、実際に2011年1月からIPv4アドレスはもう割り当てませんと言った方がおられるんですよ。メキシコの、我々と同じような国別に対するレジストリの方なんですけれど。で、結構良い反応を得られているらしいんです。
荒野 2011年ということは、地デジと同年ですね。それにしても潔いですね。しかもそれで良い反応を得られているというのが何よりすごい。
前村 JPNICとは姿勢が全然違うんですよね。こういうのはそれぞれの国の文化も多分にあるので、何が良くて何が悪いか、という絶対的指標はないんです。我々の場合は、皆さんの意見をできるだけ織り込んで、丁寧に丁寧に作り上げていくのが今のところの基本姿勢です。6月19日に発表した表明ももちろんその一つです。

世界事情とIPアドレス

ページ最上部へ
 

※10<ARIN(American Registry for Internet Numbers)>
地域インターネットレジストリの一つ。北米のレジストリを担当している。



荒野 先ほど地域ディレクトリの話が出ましたが、IPアドレスに関する考え方、いえ、そもそもインターネットそのものに対する考え方は、やはり地域によって様々な違いがあるんでしょうね。
前村 言うまでもなく、インターネットの普及率そのものが地域によってまったく違いますからね。当然取得しているIPアドレスも地域や国によって大きく異なりますし。
荒野 これからインターネットを作っていかなくてはいけない国々ってたくさんあるわけですよね。インターネットに関してももちろん先進国と途上国はあって、それこそもう全然違うわけです。地球環境の問題みたいに、各国の意識や利害も全然違いますしね。
前村 確かに。そういえば、環境問題の場合は、先進国に対しては厳しく、途上国に対しては少し緩く、というようなことを認めていますけど、IPアドレスに関しては、そういう議論はしたことはないですね。
荒野 そういう切り口から考えることも必要かもしれませんよね。
前村 途上国の問題を考えると、去年11月にギリシャのアテネで開催されたインターネット・ガバナンス・フォーラムで、インターネットに関する発展途上な国からもたくさんの方が参加して、インターネットはどうあるべきか、と議論する場がありました。
荒野 インターネット・ガバナンス・フォーラムは国連が主催なので、それこそ世界中の国からの参加者が集まるわけですね。
前村 そうなんです。そこで言われたのが、世界人口が60億人とすると、シックス・ビリオン。そのうち、現在インターネットにつながっているのはファースト・ビリオンである、と。そしてファースト・ビリオンが繋がった今、次の10億人、 セカンド・ビリオンはどうなるんだという議論があったんです。
荒野 今、インターネットに接続しているのは大体10億人くらいですから、世界の全人口の約六分の一にしか過ぎないわけですよね。


前村 その通りです。そして、よくよく考えてみると、我々ファースト・ビリオンが繋いだところでIPv4アドレスをなくしつつあるわけですから、セカンド・ビリオン、サード・ビリオンと考え始めるとIPv4アドレスが足りるとか足りないとかいう問題じゃなくなるわけです。そのくらい尺を伸ばして捉えると、全然違った考え方もあるんじゃないかと思うんですよね。
荒野 その通りですね!IPv4アドレス枯渇問題に対する対策としては、IPv6に行くというのもあるし、いやNATで大丈夫だ、などたくさん議論されていますが、このくらいまで考えてみると、むしろIPv6にどうやって移行するのかということを考えるべきではないか、という気持ちになります。
前村 最終的には、インターネットは全てのシックス・ビリオンに普通にちゃんと到達すべきだと思います。そのためにどうすべきか、を考えていかなくてはいけないと思っています。個人的には、私がもうIPv6に行くしかないだろうと自信をもって言える強烈な根拠はここにあります。
荒野 確かに!ところで、世界の中でもアジアに目を向けると、やはり中国が注目を集めていますね。
前村 中国におけるインターネットの需要は今すごいと思います。最近の中国におけるIPv4アドレス消費数は確実に伸びてきているので、これがトリガになるということはあり得ると思いますね。何と言っても国内でビリオンいるわけですから、その影響は大きいと思っています。

おわりに

ページ最上部へ
 

荒野 今日はどうもありがとうございました。いかがでしたか?
前村 荒野さんとは、旧知の間柄なので正直照れくさいなぁ、なんて思っていましたが、思いのほか楽しく、とても有意義な時間だったと思います。
荒野 そうですよね(笑)。日本のインターネット立ち上げ期からの付き合いですから。私は今、理事としてJPNICに参加させていただいていますが、理事という立場だと現場の作業、たとえばIPアドレス割り振りの審査などはやらないので、いつも大変なご苦労があるんだろうと思っていましたが、改めてうかがうとやはり大変そうですね。最後に、何か言い残したことがあれば、お願いします。
前村 JPNICとしては、とにかくIPv4アドレスがなくなりつつあるという事実を強烈に皆様に意識していただくのが重要だと考えています。そのうえで、ではどうすべきかを我々と皆様で一緒に考えていきたいと思っています。

荒野 はい。個人的には、IPv4アドレス枯渇問題をどんな風に見てらっしゃいますか?
前村 個人的には、こういう問題は、勢いというか何かがきっかけとなってふっと動き出す可能性があると思っています。ARINのステートメントやJPNICの表明などにより、徐々に、本当に少しずつですが動き始めて、これがそのうち大きな流れになっていくはずだと信じています、これ本心から。
荒野 なんとなく感覚的に、既に色々なところから足音が聞こえてきている感じですよね。
前村 そう、そんな感じです。
荒野 6月にJPNICから表明を出した直後にbiz6でこのような対談の場を設けることができてよかったです。前村さんに感謝申し上げます。本日はありがとうございました。

編集あとがき

7月に対談が行われた後、IPv4アドレス枯渇関連やIPv6アドレス割り当て、そしてIPv6移行に向けての検討など、さまざまニュースの発表がありました。前村さんと荒野さんが対談の最後におっしゃっていた"静かな足音"は確かに聞こえてきているようです。参考までに、以下にその一部を挙げておきますので、ぜひご確認いただければと思います。(編集A / 2007年8月)

・2007年8月8日 総務省 「インターネットの円滑なIPv6移行に関する調査研究会」を開催
・2007年8月20日 NTT東日本 全てのBフレッツ契約回線に対してIPv6アドレスの割当を実施すると発表
・2007年8月20日 日経ITPro 記事「いよいよ「IPv4アドレスが枯渇」でIPv6本格化?」